BOPビジネスで活躍する人材とは・・・

最近、BOP分野で就職したい、BOP分野で活動するにはどうしたらよいか、という相談を受けることが多く、学生の方、社会人の方、両方にとって非常に興味深い問題なようなので、少し私の知っている範囲で書いてみたい。

まず、学生の方から頂いた質問。

今日は学生のBOPビジネスへのコミットメントについて質問があります。


現在就職活動中のため自分たちの進路を友人と真剣に話す機会が多くなり、私の周りでもBOPビジネスに関与したいと思う学生が増えていると感じています。


そこで質問なのですが、大学生が新社会人となる第一歩目でBOPビジネスに関わることについてどう思われるかお聞きしたいです。そのかたちがどうであれ、あまり多数を占める割合ではないと思いますが笑


またその関わり方について助言していただけたら嬉しいです。院に進むことで貢献する道もあると思いますが、それ以外の道でどのように関与していけたらいいのかあまりいいIdeaが分かりません。大企業に入る道もありますが、BOPビジネスに関われる部署に配属されるとは限らないので躊躇してしまいます。

企業に就職してBOPビジネスにすぐに関わることができるポジションというのは、ほとんどないと思います。

NGOなら別かもしれません。私は幸いにもNGOが初の社会人経験でしたので、そういうキャリアもありかもしれませんが、私のいたNGOは日本でのブランチを立ち上げるという状態だったため、アドボカシーや理念はきちんとしたものがありつつ、一方で色々なトライをする時期でラッキーだったなと思っています。)

また、BOPビジネスにすぐに関わりたいというのはちょっと危険です。地元の言語ができる、現地に住んでいた、人々に強い繋がりがある、というのなら話は別ですが、今までずっと先進国に住んで、ビジネス経験がないまま携わることに危険が伴うは分かっていただけると思います。


基本的な商売の仕組み、サプライチェーンのあり方、コミュニケーションの取り方、キャッシュフローの回し方、こうしたものを初めてBOPと共に作るというのは非常に危険ですし、できればそういう人には関わってほしくありません。なぜならそれが貧困層自身の収入として跳ね返るからです。
ですので、なるべく経験を積み、ご自身に自信がある分野を作られてから、BOPビジネスに取り組むことをお勧めしています。

現在、私が知る限りではBOPビジネスに従事している多くの方は、それなりに経験を積んだ方ばかりです。たまにアキュメン・ファンドのフェローとして送られている人を現地でもみかけますが、あくまでチャリティファンドの投資家から派遣されてきた枠を超えられないケースが多いと聞いています。現場にいても決してBOPビジネスを実際に動かしている人ではないという印象です。
ソーシャル関連の様々な動きがありますが浮足立っているのも事実です。あまり踊らされずに、商売というものをしっかりと見極める必要があります。


私の会社でNPOマネジメントに関するコンサルテーションを行っている大先輩がいらっしゃったのですが、その方がよくおっしゃっていたことが耳に残ります。
「社会的な事業こそ、継続しなければ意味がない。継続できない、経営できない、ということは、つまり、裨益者に対して責任を放棄することになる。社会的事業こそ、社会的責任がある。昨今のソーシャルビジネスブームで、この重みを分かって事業ができている人は少ないことが不安だ。」
全く同じことがBOPビジネスにも言えます。ビジネスを回す根性と勇気さえあればできることなのですが、それには現地にどっぷりと浸かる覚悟が必要です。


若手で、すぐに新興国チームが結成されたら勢いいさんで手を挙げて志望し、飛び込んでいくというのも手でしょう。企業によってはそうしたチームを作りだしています。ですが、これに選ばれる確率は中小企業でない限り、非常に低い。何年もそのチームに入りたくても入れないまま時が過ぎていくことになりかねません。


それならば、自身がその社の製品やサービスを売ることに誇りを感じられる会社にとにかく入れるように頑張ることが重要だと思います。
社内で、この製品やサービスは絶対に貧困層に売れるに違いないと声高に叫ぶことです。社内のハートが燃え始めることが重要で、その火付け役になる人がいなければ、絶対にBOPビジネスは生まれてきません。
(ちょうど、これを書こうとしていたらNext Billionでも同じような意味のイントラプレナーの役割を重視する考え方が書かれていました。)


イントラプレナーの役割を担っても、一向にBOPビジネスに着手することはないかもしれません。意志決定者の意志次第です。なので、その社内ポリティックスを学ぶのも重要な能力です。外部の「お墨付き」機能を得ながら、CEOを説得できるようになることも重要です。


さて、次に既に社会人の方からもBOPビジネスに着手したいと考えて、現在MBA留学を考えているがどうすればいいか、という問い合わせをいただきました。

もしかしたらこちらのPDFが参考になるかもしれません。NET IMPACTが編集しているSocial MBAのリスティングです。
http://netimpact.org/associations/4342/files/2009guide_final2_8_19.pdf

しかし、上記に書いたとおり、こちらも同様です。現地に対する経験がない状況で、SOCIAL MBAを出たからと言ってすぐにBOPビジネスで役立つわけではないので、それについても戦略的にキャリアを練られるのが良いかと思います。


例えば、同じBOPビジネスに関わりたいといっても、どの立場で関わりたいかをはっきりさせることが重要。

投資家のような形で関わりたいのであれば、ファイナンスの経験を持っていて、BOPビジネスや途上国でのサステイナブルなビジネスに対して投資決定をするファンドマネージャーとしての道がある。事実、Shell Foundationで働いているスタッフの一人は、途上国でのサステイナブルなビジネスに対する投資をする小さなファームで働いてた経験があり、栃迫さんのMFIに投資したことがあるよ、と話していました。今では彼はアフリカにおける無煙ストーブの開発全般に関わる資金調達とキャッシュフローを管理するポジションにいます。あくまで先進国に暮らし、投資家やファンドマネージャーとして関わるケース。


他には大企業の中でサプライチェーンなどを改善して現地コミュニティと協働させるものにしたり、現地の貧困層に自社製品などを利用して収入向上を促す仕組みを作る人です。これは多くの大企業の中で、「イントラプレナー」として活動している人々の働き方がそれになります。社内での説得や外部との協働に柔軟に対応できることが重要ですが、最終的には事業全体のオーナーシップは現地に譲り渡すのが最も望ましい形ですので、現地にどっぷりとつからなくてもビジネスとしては成立します。ただし、社内での説得や資金調達などを担当しますので、社歴が十分長いことも重要ですし、コミュニケーション能力に長けていることが必須条件。


それから、現地の企業の中にどっぷりと入るパターン。これは現地で実際に雇用してもらう形になります。現地の言葉をしゃべり、その事業に関してはエキスパートになることで、現地BOP層に同化して生きていく方法です。これは覚悟もそうですが、現地への適応能力や周囲の理解も必要でしょう。そして何よりも、現地で他のBOP層の雇用を奪っていることになりますから、それを肝に銘じて、自分の価値を発揮していくことが必要です。
インターンなどで現地にいる人も大勢いますが、受け入れ先にキャパシティが一杯の場合は、逆に現地に迷惑をかけているケースもよく見ます。自分の価値が発揮されない場である場合は無理をせずに、そこでの受け入れはあきらめてとりあえず帰るべきかも、と思います


そして、最後に。BOPビジネスがどうのこうのというのを忘れてしまうパターン。とにかく何でもいいから途上国や海外ビジネスに関わる仕事をし続けることで、気がつけば必ず貧困層とも接点を持つ現場が見えてくるはず。そうした時に、イントラプレナーとなり、それまでの経験やスキルを利用して現地との調整やビジネス慣習を踏まえて、ビジネスモデルを考えていく仕組みを作っていくキーパーソンになればいいのです。私があった人は、ずっと鉱山や炭鉱の事業を行う会社で働くエンジニアでしたが、アフガニスタンで緊急支援時のインフラ形成にかかわったことがきっかけで、今ではBOPビジネスの現地とのコーディネイターになっています。こういう人生もありではないかな。


MBAなどでは最近BOP人材を育てるといったことでコースなども出てきているようですが、結局、紙で勉強したものは現場では違います。現場に出た時に足手まといにならずにBOP層に受け入れてもらえるためには・・・と考えるうちに、いろいろな手段が見えてきて、それが独自性を生むようになるはず。


と、私も経験が少ない中で書いているので、まだまだこれから。
私の知っているBOP関連の諸先輩方は本当に白髪のおじさま方ばかり。元気に世界中を飛び回りながら、自分の子供に良い世界を残そうとしている。話しを聞けば、もう20年も企業に勤めたり途上国のNGOをサポートしたりしているという。長い年月がかかることだからこそ、キャリアや人生設計についても生き急がず、長い目で見る、ということが重要だな、とつくづく思います。

**追記**
もしくは完全にEntrepreunerとしてBOP層向けのビジネスを立ち上げるというのもあると思います。自分でリスクをとり、自分のネットワークのみで立ち上げるということです。私が会った人では、コンサルティング会社で勤めた後、30代に入る前に起業した青年で、インドの分散型エネルギーの機器をマイクロファイナンスと共に農村部に普及させる会社を立ち上げていました。

特に技術系に特化するとこうした起業は比較的可能になるようです。コミュニティ開発や現地へのローカライズなど、人材や関係性をめぐる仕事をしたい場合は、やはり長い年月と経験が必要なので、簡単に起業などができるものでもなく、そういった包括的な取り組みをするには長い長いキャリアを前提に少しずつ石を積み重ねていくものなのだと思います。
(それは他の起業とも同じですね)