BOPビジネスとは何なのか、という問い

月末にいろいろ立て込んでしまい、ばたばたしておりました。更新遅れました!
(ブログを通じてメールをくださる方が増えており、すべての方にまだ返信できておりません。ごめんなさい!)

そんな中、幾人かの方とお話していると(もちろんメールで、日本人の方ですが)
「BOPビジネスの定義」のお話をされる方が増えてきたように思います。


先日書いたブログの投稿もBOP戦略研究フォーラムのブログで引用いただいてました。前回書いたアーティクルの事例は「DFIDがBOPビジネスとして紹介している事例」だったので、あくまで「DFIDが考えるBOPビジネスの定義」ですが、そこに社会貢献も含まれていることを指摘されておりました。


私があえて、「DFIDのBOPビジネスの定義」と明示しなかったのは、DFIDがBOPビジネスと言っていたというよりも、「開発とビジネス」の関係を強くするためのプロモーションをしていた、という方が正確だったかもしれないからです。
もっと深く突っ込んで話しますと、“ビジネス上の利益だけを追求し、その成果(=収益)で「成功」または「失敗」を決定する”という判断をすることは非常に難しいのがBOPビジネスであることも、ひとつの原因だと思います。
かといって、「では、これは社会的インパクト、そっちは利益」という風に切っても切れないのがBOPビジネスでもありまして、それが醍醐味でもあると思います。
そのあたりを一つ、今日はじっくり腰を据えて書いてみたいと思います。


私自身が考えているBOPビジネスの定義は、基本的には2009年7月に記載したものを念頭に置いていて、特に変わっていません。BOPビジネスに必要とされる条件から絞り込んで考えています。

2009年7月の投稿:
http://d.hatena.ne.jp/shinoise/20090723/1248335405

要約してみると、大きく分けて、以下の4つの要素が必要だと思うのです。
(1)Accesibility
貧困層がいまだ持っていない、製品・サービスへのアクセスをもたらし、貧困層の生活向上に貢献すること(価格を低くすることや、チャネルを延ばすことも、商品を貧困層向けに開発することも指します)
(2) Sustainability
経済的に、社会的に持続可能なモデルであること
(3) Localization
人材・技術・文化の面で現地化をすること
(4) Participation
その過程の中で貧困層が主体者として参画していること

これの詳細な説明は、今度きちんと断片的ではなく公式に記載できる場所で記載したいと思います。
(雑誌への投稿か、執筆中の論文などできちんと正確に記載して、こちらに載せたいと思います。というのも、ここはあくまで「個人ブログ」の位置づけですので!)


最近いろいろ語られているBOPビジネスの定義の多くは、「経済的に持続すること」と「社会的な裨益(貧困削減の効果)がある」ということが両立するものというのが多いようで、恐らく、私もそうした領域をBOPビジネスと呼ぶのだろう、と考えています。
(日本でもこのようなディスカッションの土壌が形成されてありがたい限りです!1年前には考えられなかったこと!)


ですが、私が一つ気になっているのは、現地発のBOPビジネス企業と、多国籍企業が取り組もうとしているBOPビジネスの定義は多少異なってくるだろう、ということです。


多くの質問を受けるときに、みなさんの考えていらっしゃるBOPビジネスというのは、多国籍企業が取り組んでいるビジネスを指していることが多いということに気づきました。また、いくつかのソーシャルビジネスの起業家を指していることもあるようです。
これは非常に面白いなあ、と思います。

日本人の多くの方々が、無意識にBOP層自身がやっているビジネスのことを含めていないのではないか?
これは一つの発見でした。
なぜなんでしょう?


確かに、多国籍企業の場合、途上国と本業のビジネスの中ですでに関わりを持っていますから、その関わりに対して「Responsible」であることが重要だと思います。
この「Responsible」という言葉、欧米の大企業の人々でBOPビジネスをかなり先進的にやっている人々から、何度も聞いた言葉です。
「We are responsible to the situation.」
つまり、social contribution(社会貢献)やチャリティではないのです。「自分たちの事業が及ぼしている影響、そして関係するすべての生態系、人々、地域、世界を考えれば、この事業をサステナブルな方向へ変えていくのは当然のことであり、自分たちはそれに積極的にコミットしようと考えている」という意思なのだと思います。

もちろんアピールに忙しい人たちもいますから、そういうのは目で見てすぐ「そういう類の活動の人々だ」とわかるのですが、一部の本当に真剣に、これからの世界とどう対峙する企業を作っていくかを考えている人々は、「Responsible Business」へとシフトしていくことを真剣に戦略づけています。
それが長期的に、自社を存続させる、唯一の道だと知っているからです。

なぜここで「責任を取る」という単語を使わないかというと、「責任を取る」という日本語と少し違うと感じるからです。Responsibilityの訳が「責任」でよいのかという議論に突入してしまいますが、彼らはより積極的にコミットしていこうとしているように感じられ、「責任を取る」という日本語の言葉自体が持つ社会的なプレッシャーからの消極的な態度のニュアンスと少し異なるように感じるからです。誇りを持って、この課題に取り組むことが自社の価値を上げるということを目指して、ポジティブに実施する態度を見かけます。


私は、多国籍企業がBOPビジネスを行うことも確かに重要だと思いますが、
それよりもBOP層自身がビジネスを立ち上げているのだということ、
そしてそれに多国籍企業「巻き込まれている」のだということ、
いや「関わらせてもらっている」のだということ、
これを声を大にして、言っていきたい、と思っています。(笑)


私がBOPビジネスを通じて出会った言葉。

「価値協創」Value Co Creation。


この意味をしびれるほどに感じたのは、フィリップスの無煙かまどの開発にかかわったデザイナーと話したときでしょうか。インドのNGOとともに、インドの室内空気汚染について対策を練った製品を作り出した過程をつぶさに聞いていたのでした。
排煙機能がない伝統的なかまどを使っているインドの伝統的な家庭では、女性こどもの死因の多くを肺の病気が占めています。そこでフィリップスは、「医療」分野に注力していくことも踏まえて、自社の製品デザインの力・技術を使って、何か製品開発ができないか考えたのです。自分の一番の強みを、さらに飛躍させるために。それにかかわった女性と話したのですが、デザインチームのリーダーのボスは日本人だそうです。

それでも、おそらく、彼女はまだまだ現地に足をどっぷりつけてはいませんし、彼女にインドの事情が全部わかったのか、というとそれは違うと思います。

ただ、彼女たちが凄かったのは、すべての既成概念を捨て、自分たちをまっさらな状態にして、インドのNGOたちと向き合ったことでした。
この勇気と、その勇気を出させるに至った企業の精神、そして彼女たちのチャレンジングな姿には圧倒させる力がありました。彼女たちはこのプロジェクトを通じ、さらにいっそう強力なアイデアチームへと進化していったのでした。

結果、全くフィリップスとは思えない、現地の土で作るレンガでできた、ハイテクとアナログをかき混ぜたようなハイブリッドな無煙かまどが出来上がりました。
この組み合わせを、彼らだけで考えることができたでしょうか?

これこそ、BOP層によるイノベーションであり、BOP層と一緒に協力しなければ、絶対に成し遂げられないイノベーションなのです。
これを収益化していくのは、さらにイノベーションを進めていく課題ですが、それができないわけがないのです。インドのNGOと常に対等にオープンなディスカッションを続けている限り。

(このケースについては詳しくは過去の国際開発ジャーナルにも掲載しました。)


もちろん「ビジネス」と呼んでいるので、事業が願わくば「収益性を持つ」ことや「規模の拡大ができる」ことも重視しなければなりません。ただ、研究開発の途上にあり、イノベーションを起こすための様々な試行錯誤や仕掛けをしている途中のものもありますので、必ずしも最初から収益性を持てるわけではない。
よく人々が言葉にする「収益」とはなんでしょう?
どの期間の、どこでの売上を指すのか。ブランド価値や口コミによるリピーターの確保はどうやって算出するのか?
収益が出たからビジネス、今は収益が出ないから社会貢献活動、という呼び方や区切り方はあまり意味をなさないのではないか、と考えるようになりました。
つまり、呼称は呼称であって、事業の内容が本質的に変わらなければそれでいいと思うのです。


正直なところ、真面目に「完璧なBOPビジネスの定義にそった事業形態」を探し出すことはしない方がいいですね。そんなものはありません。(笑)
(ビジネスというのはもっとどろどろしていて、もっとせっぱつまったものですね。)

ベネズエラのBOPマーケティングをしている人々と話した時は、やはり「柔軟性」以外に、頼りになるものは何もないのがBOPビジネスだと話していました。

日本人はどうも理想形を求めるので、そのあたりのフットワークの軽さは、現地で実際に問題に対峙している人たちの行動力には負けてしまいます。(いや、むしろ現地では明日にでもこの問題を解決するための様々な施策をうっていかないと、生活がせっぱつまっているから行動せざるを得ないのですが)


ここで今まで述べた定義に関する「よしなしごと」は、あまりに曖昧に聞こえるかもしれません。
でも、曖昧にしなければ柔軟性も失われる。そして、次第に、現地のビジネスを拝見していくにつれ、「BOPビジネス」という単語を使い、それを定義することがなんだか分からなくなってきています。


私自身、実は「BOPビジネス」という言葉を使うことに躊躇いがあります。
それは7月の記事でも書きました。
http://d.hatena.ne.jp/shinoise/20090807/1249661753


実は、BOPビジネスは過渡期の言葉であると思っています。そのうち消えるでしょう。

次世代のビジネスへ移行するための過渡期の言葉です。
次世代のビジネスとは、新しく、BOP層もターゲットにしながら、企業が変わっていく先なのだと思います。


BOP層と呼ばれる人たちと、新しいアイデアを作りだしながら、公共分野(医療、教育、貧困などの課題に対峙する分野)で、力を発揮していく企業へと、変革していくための。


それは決して正義でもなければ、決して善悪でもなく、
そう選択する企業もあれば、そういう選択をしない企業もある、ということだけなのです。
企業の戦略であり、どこに強みを持とうとしていくか、ということの表れなのだと思います。


これについても、今度きちんと公式の場で書いていこうと思います。(できれば年内に!笑)


ご意見などもどうぞよろしくお願いします。
コメントも受け付けていますし、メールでも全くかまいません。