美化されるBOPビジネス・・・、甘い言葉に要注意

「開発(国際協力)」と「ビジネス」の組み合わせが今まであまりになかったものなので、期待が高まるのも当然なのだが、実はその過程は甘いものばかりではない。

この「酸い」を知っての、語り口というのが重要だと思います。

実は私が今一番懸念しているのが、BOPビジネスへ過剰に高まる期待と美化モデル。同じ懸念を藤井さん(RIETIのフェローをしていらっしゃる方で、アジアのCSRに詳しい方です)がIDJ(国際開発ジャーナル)のIDJレポート10月号に書かれていらっしゃいました。
また、先月のIDJ9月号にはいつもお世話になっている玉懸さんのBOPに関する記事の中で、「官」があまりに期待をしすぎている点を指摘されていたように思います。


美化モデルがなぜ生まれてしまったのか。
そして、なぜ美化したくなるのか。
そして、それがなぜ「美化」と言われてしまうのか。

この下りを検証してみようと思います。


そのサンプリングとしてちょうどいいのが、イギリスにおけるDFID(英国開発庁)と企業の関係。
実はBOPビジネスへのアプローチというのはとってもお国柄がでるもので、大きく分けて欧州、アメリカは大分アプローチが異なる。そして、大陸系とイギリス、北欧でもちょっとずつ違う。企業のスタンスも、政府や援助機関のスタンスも少しずつ異なる様子。

(全て、先進国と呼ばれる国の政府と企業のお話だけに今日は限定しますが、本当のBOPビジネスと呼ばれるようになったものは、先進国企業や政府とは無関係に始まっており、本来は現地発のボトムアップアプローチを参照すべきだと思います。ですが、ここでは「BOPビジネスを美化している人たち」を今日は題材にするため、先進国のみに話を絞りましょう。)


UKにいるというロケーション的なデメリットを回復するために、DFID(英国開発庁)とODIが協働で行った200人くらいを呼ぶこじんまりしたシンポに行ってみたことから検証します。ODIは、Overseas Development Institutionsという最近力を復活させてきているシンクタンク。開発関連・外交関係に強いと聞いています。昨年にUKで最も優秀なシンクタンクに選ばれたそうです。

登壇したのはBlood Diamondでお馴染みの(と言ったら怒られるかもしませんが)De Beersと、ギネスを出している英国のサッポロ・キリン・アサヒとでもいうべきDiageo。この二者を選出してくるあたりから、イギリスの状況を察知する必要がありそうです。
De BeersもDiageoも、アフリカ拠点で様々なビジネスとCSR活動とBOPビジネスと呼ばれるプログラムを実施しており、そのストーリーを語ってくれました。


Diageoについては、水浄化フィルターの会社を西アフリカ地域で展開しています。(CrystalPurという水浄化フィルターです。)
https://www.diageogivingforgood.com/
このサイトを見るとわかると思いますが、主体となってやっているのはDiageoの財団であるThe Diageo Foundationです。そして、一緒にやっているのが、
EnterpriseWorks/VITA, AT Uganda, BRAC Ugandaとなっていて、水浄化キットが必要とされているウガンダの学校、ヘルスケアサービスなどへのディストリビューションにはこうしたところと組んでいるということです。
(日本企業で現地でのディストリビューションを考えている企業さんには、こうした連携があるのか、と参考にはなると思いますが、後日より詳しく書きます。)


Diageoについて深堀して書きましょう。(De Beersよりも多面的で資料も多いからなのですが)
Diageoが行ってきたCSRの取り組みや、現地でDiageoが行っている仕組みは決して悪いものではありません。水浄化のビジネス以外にも、本業の部分では、原料調達におけるサステナビリティ(ナイジェリアでは95%の原料を現地調達)、Diageoの工場で働くアフリカの労働者への様々な啓発活動や社会福祉の徹底、農業コミュニティの支援など、多種多様、まんべんなく行っています。
そして、Diageoが最初に強調したのは「Job Creation」。自分たちが進出することで雇用を生み出している!という主張です。果たしてこれがどのようにアピーリングなのかは、人々の反応を見てみることにしましょう。


残念ながら、CSR広報活動を何千回と耳にしてきた私たちには、よく聞く言葉が並べられているように聞こえてしまう。これは私の職業病というだけではなく、周囲にいたロンドンのビジネスマンたちにもそう聞こえたようでした。


一つ不思議に思われたのが、(みなも不思議に思ったのでしょうか)水浄化のビジネスと本業での活動が完全に分離していることでした。前者は財団がやっていますし、援助機関や現地の自治体へ開発した浄化キットを納入するタイプのビジネスです。一方、本業にこのビジネスはどう影響を与えているのでしょうか。

その結果、矢継ぎ早に様々な質問が飛び交います。
「なぜ現地の団体や現地の組織との連携があまり多くないのか」
HIV/AIDSなどに対応することは考えていないのか」
「Financial Inclusion(金融的包括:マイクロファイナンスなどによる金融サービスを届けることで、フォーマル経済に参画することができるようにすること)などとの組み合わせは考えないのか」
「自社の製品との関係性は考えないのか」
ODAなどの援助資金だけをあてにしたビジネスをするのか?現地の政府との関係性はどう考えているのか?」
などなど。
ここまでシンプルな質問ではありませんでしたが、多種多様な方面の実践者たちが集まっており(実際にアフリカから来ているアフリカ人の人々が半分以上いました)その実践と経験に基づき、様々な辛辣な質問をされていました。


時間がなく、Diageoの担当者も一つ一つに真摯にこたえることができなかったのが心残りでしたが、ひとつ総括して彼が面白いことを言いました。


「私たちは、アフリカのロビンフッドの役割を果たすんです。」
非常に興奮して、意気揚揚と言っていたのが忘れられません。


これを聞いて、強く頷く人もいれば、少しポカンとした人も多かったようです。
「なぜ、アフリカのロビンフットに、イギリスから来たDiageoがなるのだろうか」
(そもそもアフリカの状況を作り出したのは・・・と言いたくなるアフリカ人の方々も多かったのではないかとおもいますが・・・)


ここであらわになった懸念材料は…
「Diageoという会社はBOPビジネスを始めることによって何を得たのだろうか」
ということです。


まず、何もスタンスが変わっていないのです。これは数多くの質問が指摘した点でもありました。De Beersに対しても同じ質問がされていました。
本業のバリューチェーン自体は、変化があったと言っても、本当に少しのマイナーチェンジに見えます。(企業にとってはマイナーチェンジではないかもしれませんが、それは地域の貧困削減に役立っていると公言するのであれば、もう少し変化しなければインパクトは出ない、ということでしょう)

また、水浄化ビジネスで得たコミュニティに対する知見はどうやって本業に生かしていくつもりなのか。
そして、いつの日か、それらのコミュニティとの絶大な信頼関係を築き上げることに成功して、バリューチェーンの手を放し、それらのコミュニティに預けてアフリカを去ることができるつもりなのか。

DiageoのBOPビジネスは、本業のバリューチェーンやコミュニティに投下すべき商品について、どの程度影響を与えることができるのでしょうか。
それとも、「財団がやってること」と「本業がやっていること」は全く別物として取り扱われるだけなのでしょうか。


ここまで来ると頭を抱えてしまうのが企業の担当者でしょう。美しく語ることはできても、自分にはそこまで事業のコミットをする権限はないからです。


そこで、この事態からわかる、非常に重要なポイントとは、企業の方針、数年後までにこのビジネスをどのような成果として企業価値につなげたいかを、明確に示しておく、ということです。
それが出来ていないと、従来のサプライチェーンにおけるCSR活動の延長線上に出てきた、多少今までにない珍しい活動、といった形に見えざるを得ません。


これは担当者に聞くべきことではなく、BOPビジネスに投資を決断した企業に聞くべきことなのですが、実のところ、ここまで先まで見つめて事業設計をしていない企業が多いということに驚きます。
サステナビリティが自社を次世代に導き、自社を変える」という方針をを企業方針として、全面に打ち出しているDiageoでさえもです。その言葉の裏にある、細かいプランはまだできていないのでは?と疑ってしまうのも無理はありません。実行計画のない公約のようなものでしょうか。


批判を逃れるという意味だけでなく、シビアなBOPビジネスに参入していくには、CSR活動の延長で、財団によるチャリティで行っていたのでは、最終的にはサステナブルには続かなくなります。現地で従来から社会福祉や教育に携わってきた国際協力NGOでさえも、もはやチャリティでは無理であることに気付き始めているのに、さらにチャリティで参入して同じことをしても無理だということです。新しいモデル、新しいビジネス、新しい価値の創造を作りだすためには、相当シビアな条件が課せられます。それでも、そこに投資するだけの意味を見出すには・・・・?長期的な戦略と実行計画を書いた上で、ようやく応えられる回答がそこにあるのでしょう。


美化されるBOPビジネスに、冷水をぶちまけるようなお話でしたが、こういうテーマも必要なのでは、と思います。

「美化」の過程を検証するまでには至らなかったので、Part 2ということで、後日も続けて書いていこうと思います。