デザイン展から考える: モダンデザインの持つ民主性と日本の強み

「世界を変えるデザイン」の書籍から発展して、こんな動きになるとは思わなかった・・・


「世界を変えるデザイン」展のためにNYからわざわざ足を運んだイローナ(「世界を変えるデザイン」のあとがきで、私が一緒にNYのアフガニスタン料理屋でサモサを食べたイローナです)が、感激のあまり声を漏らしていた。

ふたりで見つめ合い、「いやーこれは想像以上だわ」と感動した。初日で800人の大入りだったというから、興業的にも成功だったのであれば嬉しい限り。



私だって、想像していなかった。ちょうど1年前、私はイローナに打ち明け話をしたのだ。

「私、今出版社さんにもちかけて、Design for the Other 90%の日本語版を作っているところなのよ。」


「わお、Good for you!!!すごいじゃない。日本でもエキシビションをできたらいいね。」


「いや、そういう機運じゃないね。
この本を出すにしたって、日本のデザイナーたちは、わかるだろうか、と不安なの。このデザインは、かっこいいものを作ったり、見栄えのいいものを作る「デザイン」ではないってことが、伝わるだろうかと。」


「でも、日本のデザインはいつもシンプルでモダンで、ポテンシャルがある。優秀なデザイン思考がそこにあるはずよ」


「確かに、モダンでシンプル。でもそれが、『ソーシャル』という領域との接点を持つことが今までなかった。『ソーシャル』なものは、今まで社会運動とか草の根とか、ちょっと変わった人達がシュプレヒコールをあげているもの、ってつい最近まで思われていたのだから。自分のものとして『ソーシャル』な問題を考える体験が少ないのよ。」


「ふーむ、それはおかしいわね。だって、人は誰だって、『ソーシャル』な中で生きているはずよ。社会に生き、その問題に直面し、それに疑問を思う、というごく自然な行為。わざわざ途上国にいかなくたって、このNYには疑問を持つべき対象が山のようにある。」


「そう、この話をし始めると、日本の市民社会の成熟度について話さなければならない。でも今日は市民社会論を話しにきたんじゃないから…。

とにかく、そういった意識を持つことがないのかもしれない。いや、デザイナーに限らず、この問題が解決していく時に感じる個人的な体験としての、『面白さ』や『感動』に対して、自らの時間を貢献しようとする人々があまりに少なく、本当に関心が薄いのが現状のように思う。

マーケッターも、企業の事業決定を行うマネージメント層も。不思議なくらいに無関心な人が多い。社会に対して『無関心』でいることが許されて、それがステータスに響かないんだから、日本は。

そして、少数の起業家精神のある人やソーシャルビジネスオタクだけが、この問題を自分のものとして捉えているけれど、それ以外の人達はとってもクールに、自分の問題として考えられていないんじゃないかな。

ねえ、NYではどうやってこのムーブメントを起こしたの?」


「NYでももちろん大変だったのよ。別にNYだけでなくアメリカ全体でも。個々人の、動かす人がたまたまいて、たまたま繋がって、シンシアがそこに価値を見出した、というだけ。

でも、Design that mattersみたいな継続的な活動ができるNPOが存続して、一時的なブームじゃなく、人々がアクションを起こすことができる場を提供している。」


「日本もそうなるのかな?デザイナーからの反応がどうでてくるかは、この本が出るまで、本当に未知数なのよ。そう、蓋をあけなくては、何がでてくるか分からない…。」

。。。。。と相談をしていたのだ。




そして蓋を開けてみた。
2009年10月に出版をされ、11月には書店ランキングで上位に入っていると朗報を受けた。イギリスにいた私は、英治出版の高野さんに「どんな人が手にとっているんでしょう」と伺った。

意外にも30代男性が多いようですよ、との声。
社会人で、ビジネス上でも決定権が増えてきた層になる。


ふーむ。
それでもまだ実感がわかなかった。ほんとうに?誰が読んでいるの?


2009年11月になると色々な人から本サイトの「お問い合わせ」から連絡が来るようになった。毎日、毎日、沢山のお問い合わせ。


読んで面白かった、興味がある、いっぱい勉強したい。
もっと知りたい、もっと関わりたい。
これが自分の人生で求めていたものだ。

ひとつひとつ、お答を可能な限り、私の渾身の力で、お返事させていただいた。感動するメールも沢山あった。


その中に沢山の出会いがあった。


BOPラボを最終的に一緒に立ち上げることになったICUの高野くん。あまりにも色々質問が来るので、もう面倒臭くなって、お会いしましょうということでロンドンであったら(笑)、そのまま一緒にオンラインラボを作ろう、という話になったのだ。たった、4時間、コーヒーチェーンで座り込んで雑談していただけの話し合いの出来事だった。
それが今では200人を超えるメンバーが集まるコミュニティになっている。


それから日本産業デザイン振興会の矢島さん。
矢島さんは、この動きをデザインといった小さな枠組みでなく、新しい資本主義の在り方というところまで広げて考えてくださっていた。
12月に日本に帰国してすぐにお会いして、これからの時代、資本主義の在り方や大量消費社会についても少しずつお話し、色々なところで矢島さんの考えてらっしゃることがシンクロすることが分かった。
そこで、「最初は4人くらいの飲み会」だったのが、矢島さんが企画してくださったおかげで90名の人が集まる大宴会になり、このビジネスデザインに関係する人達が最初に集まり、顔を合わせるきっかけとなった。
このチャンスが本当に後の半年を変える出来ごとになったと思う。
それが12月23日に行った「BOPビジネスの製品・ビジネス開発ラウンドテーブル」だった。


そこに集まった「面白い人」たちが、今動き出している。大学の先生も、デザイン学科の学生たちも、企業のエンジニアも、そして若い学生や意欲にあふれた人達も。


ここでグランマの本村君も、皆と繋がった。彼は元々知り合いの知人で、彼がグランマを立ち上げる以前に私は1度くらい会ったことが合って、その時はBOPのBの字も話さなかった。その後2年して、たまたま凄くプライベートなことで連絡をとったら、本村君もこれに関心があるという。
「じゃあ、おいでよ。プレゼンしてよ」と言った。そしたら、彼はデザイン展をやりたいとプレゼンした。


不思議な縁が重なって、今に至っていると思う。




このデザイン展の会期が13日で終了する。

ツイッターでの動きをみる限り、このデザイン展の間中、熱狂した人々が沢山の繋がりを作ったことが分かった。
これが継続していく横のつながりとして残ることを期待したい。


そして、デザイン展の会期の最後の日に、私も日本に帰国し、今回のアクシスギャラリーのキュレーションをされた佐野さん、日本産業デザイン振興会の酒井さん、そしてグランマの本村君と最後のパネルをさせていただくことになった。


そこで今思っている疑問は一つ。
今、みんなと話したいと思っているトピックは一つ。


日本のデザインの強みは何だったのか。
そして、その強みを、いかにこの『ソーシャル』との接点で、昇華させ、新たなる強みにしていくのか。


『ソーシャル』との接点は、日本のデザイン思考に対し、イノベーションをもたらすのだろうか。


イローナが言う「シンプルでモダン」なデザインが持つ本質的な意味は何か。そして、そこになぜ日本の強みがあるのか。


私はモダン・デザインは民主主義だと思っている。フィリップ・スタルクが考えたのと同じように、そして、19世紀のモダン・デザインの祖であるウィリアム・モリスが考えたのと同じように。

そこにサステナビリティの要素が強く強く意識される時、社会性が持続していくために、民主的な社会が持続していくために、モダン・デザインが果たすべき要素は何なのか。


これは見栄えのデザインだけでなく、ビジネス全体でそうだ。
民主的な社会を、民主的なビジネスを、デザインできる日は来るのか。
そのビジネスとは、「収益」と言った喜び以外に、人々に対して、一体どんな「喜び」を提供してくれるものなのか。


今、そんなことを考えながら、2週間後にせまる会期終了への準備をしています。